資産運用業界は特別な世界?
まだフリーランスとして活動していた時期のことですが、機関投資家が集まるセミナーに参加したところ、最後のセッションのパネル・ディスカッションで債券運用についての議論となりました。
パネラーは、外資系証券のエコノミスト、年金基金の運用執行理事相当のお二人、モデレーターには元年金基金の運用執行理事というメンバーでした。そこで債券運用を母体企業関係者に分かってもらうためとして、パネラーのお一人が用意していたスライドは、
・債券価格の計算式(キャッシュフローを割引率で現在価値に割り戻す数列式)
・修正デュレーションの計算式(微分を用いたもの)・
・金利水準やクーポン水準によって債券の価格感応度が異なるかなどを示したグラフ
でした。
当時はまだ「金利のない世界」の終わりごろであり、そもそも債券運用自体、一般的にはなかなか馴染みのない世界だと思われます。日経平均株価指数の終値はニュースでも取り上げられることがあっても、長期国債(10年物)の利回り水準を紹介するようなケースは新聞紙上以外には、地上波ではテレビ東京系列のモーニング・サテライトやワールド・ビジネス・サテライト以外には殆ど目にすることがなかったものでした。
この話に関連して思い出す話としては、年金基金への営業を担当していたとき、内外債券・株式に投資するバランス型運用の四半期報告で債券の運用結果を説明するのに苦労していたことでした。冒頭のセミナーでたまたま隣に座っていらっしゃった国内系資産運用会社のストラテジストの方も同じようなことをおっしゃっていましたが、例えば国内株式の運用結果を説明するために、
・ベンチマークとして用いられる株価指数(TOPIX)ないしは日経平均のグラフ
・四半期/年度の収益率(ファンドの収益率、ベンチマークの収益率、超過収益率)
を最低限説明すれば恐らく及第点であり、少し説明を付け加える場合には、
・要因分析結果(銘柄選択効果、業種配分効果、その他複合要因)
・超過収益率の獲得に貢献した代表的な(馴染みのある)銘柄のファンド収益率に対する寄与度
を説明すればある程度納得していただけた、というものでした。
ところが国内債券の運用結果を説明する場合に、最初に乗り越えなければならない(こっそり確認しなければならない)課題は、
相手は金利の動きと債券価格(ひいてはファンドの収益率)との関係をご理解しているのか?
ということでした。「債券価格と金利の動きの関係」を分かっている方にとっては全く不要な話ですが、そもそも「なぜこの四半期に金利は上がったか(下がったか)」を説明するためには、
・マクロ経済環境
・日銀の金利政策の方向性
・債券の需給要因など
を説明してからでないと難しいと感じていました。そのため、国内債券の説明をいかに手短に済ませ、次の資産の説明をするかといったことを意識していました。
もちろん国内債券でも詳しい説明をしようと思えば、要因分析も可能です。当時の要因分析の項目としては、
・デュレーション要因
・セクター配分要因
・銘柄選択要因
の3つがありました。但し、「デュレーションとは」とか「セクターの内訳はどのようなものか」といったことまで踏み込む機会は実際には殆どなかったと記憶しています。むしろ、当時勤めていた会社では親会社の特別勘定の投資助言を行っており、親会社の営業担当者と一緒に同行訪問していましたが、あるとき「カタカナを使ってはダメ」とのリクエストがあり、表現に苦労しました。
個人的には米国投資適格社債への投資を含めて外国債券運用に携わった経験があるため、カタカナを使うこと自体に抵抗感はありませんが、四半期の報告に伺うと、母体財務・経理での職務経験をお持ちの年金基金の方でも、特に就任間もない時期には債券運用で使われる概念や用語には馴染みがないとの反応が多かった印象です。
以前幕張で開かれたCEATECに足を運んだ際に、量子コンピューターの仕組みについて自分のような典型的な文系出身者でも分かるように、難しい部分を省略して説明していただいたことがありましたが、年金営業のときに自分が話していたことは、恐らく同じような状況だったのでは思われます。
